造形作家、テキスタイル・デザイナーとしての仕事に就く女性アーチスト、フローレス・バブッシがピアノを弾き始めたのは、何と本作発表の2年前、2019年のこと。以前にも音楽理論を学んだことのないアーチスト、ニコラス・モギレフスキーの初期衝動に忠実な作品を制作したことのあるウリセス・コンティが、今回もフローレス・バブッシのピアノ表現に助言を差し向け、純度高くプリミティヴなサウンドを提示してくれています。沈黙に続いてひとつひとつ置かれていく柔らかな音色。北欧のオーロラだったり、祖母へのオマージュだったり、日本の山水景石だったり、楽曲ごとに対象を思い描いて感情を結晶化すべく作曲された9つの作品は、コロナ禍の検疫下にてじっくりとブラッシュ・アップされました。小さな物語を語りかけるかのようにシネマティックなソロ・ピアノ作品は、風で舞いながら偶発的に姿を形成したテキスタイルの瞬間を捉えたカバー・アートを伴っています。